
導入医療機関様の声
「遺伝学的検査ファースト」の時代へ

筑波記念病院 つくばトータルヘルスプラザ
マネージングディレクター
池澤和人
【聞き手】遺伝と聞いて、どのような印象をお持ちになるでしょうか?
【池澤】まずは「家族歴」を思い浮かべるドクターが多いと思います。日常診察のなかで、「家族歴」を丁寧にとるのはとても大切です。ところが正確を目指そうとすると、これが結構難しいんですよね。なにしろご本人が、親戚の病気をしっかりと把握できてないことが少なくない。そこで、遺伝学的検査によって遺伝情報の特徴を捉えれば、家族歴を補完できる可能性が出てくるわけです。家族歴は重要ですが曖昧で不完全。正確なリスク評価のために、遺伝学的検査が必要とされる時代に入っています。まずこの検査でご自分のリスクを把握し、その結果を家族と共有する「カスケードスクリーニング」が、今後は当たり前になるかもしれません。
【聞き手】遺伝情報をどのように活用しますか?
【池澤】健診施設の現場で、生活習慣の改善について指導するときには、集団の結果(つまりエビデンス)を重視します。多くの人へほぼ同じ予防策を推奨します。例えば、「塩分を1日6g未満にしましょう」とか「週3回30分以上運動しましょう」といった具合です。検査数値についても同じ。けれども、家族歴や現在の生活習慣以外にも、個人個人の違いをもっと見ていかないと。それこそが、遺伝情報なのかなと思います。そうすれば、たとえばがんのリスク要因の一部を事前に把握できる場合があります。ただし遺伝的要因以外にも多くの因子が複雑に関与するため、確実な予測でないことは注意が必要です。
【聞き手】具体的にはどんなふうに指導できますか?
例えば私の場合は、タバコを吸っていないので、肺はとても綺麗に維持できています。しかし遺伝学的検査の結果では、喘息とCOPDのリスクが高かった。もし、私がタバコを吸っていたらすでに肺がんになっていたかもしれない。健診の現場では「父も高血圧だったから自分もしょうがない」という声を耳にします。でも、たとえ遺伝的なリスクがあっても環境や生活習慣で大きく変えられる部分が多いことがわかっています。大事なのは「これからどうするか」。運動、食生活、薬の使い方など、自分で選べる余地は必ずあります。その他にもリスクを下げる健康習慣はとても多く、無料アプリのPOSRIはエビデンスと共に収載されているのでとても役に立ちます。
【聞き手】どのような体制で取り扱われるべきでしょうか?
【池澤】遺伝学的情報の結果は、やはり医療者による説明が欠かせませんね。現場では、遺伝について詳しく説明ができるリソースがまだ十分には足りていないので、当面はNPOこどこどさんの保健師を活用させていただこうと思うものの、ゆくゆくは地域医療の現場で対応していける保健師を育成していきたいです。
【聞き手】世間ではタイパ、コスパなどとよく言われます。時間の価値最大化や健康投資についても触れられていたと思いますが、池澤先生はどのようにお考えになりますか?
【池澤】まず、「〇〇をしなければXX病にならない」みたいな単純なことは言えません。ですが、とくにまだ若い方、まだ検査数値が悪くなっていない方にぜひ将来のリスクを認識していただきたいです。効果には個人差がありますが、これから健康寿命が50年、60年もある若い方にとって、遺伝学的検査は長期的な健康管理の観点から意味ある投資と考えられます。自分の健康についての遺伝情報を知ることの価値はとても大きく、検査費用とは比較にならないと思います。
【聞き手】薬剤についてはいかがですか?
【池澤】私の場合は自分の検査結果を踏まえて、薬剤に関して遺伝的多型で気になった情報をカルテに書き込みました。
【聞き手】えっ、ご自分でカルテを上書きされたのですか!、さすがです。
【池澤】今はまだそれらの薬の投薬を受けてはいないけど、でも将来可能性がある。今のうちにカルテへ書いておけば、自分が倒れて運び込まれ、いざその薬を処方するとき担当医に考慮してもらえると思ったからです。例えばスタチン(コレステロール降下薬)が通常の半分の量で十分効く体質であるとか、抗血小板薬が効きすぎる傾向などが知られています。もしそれらのリスクを知らずに通常量を投与してしまうと、副作用が強く出る恐れがあります。前もって遺伝情報を知ることで、一生飲み続ける薬の量を減らせるなら、個人差があるものの適切に薬剤や量を選択することで治療費を抑制できる可能性もあります。遺伝学的検査は健康リスクの把握だけでなく、医療の効率化や経済的メリットにも直結するのです。
【聞き手】最後に、読者の方へのメッセージをお願いします!
【池澤】遺伝学的検査は“未来の病気を防ぐための羅針盤”。 若いうちからリスクを把握することで、長期的な健康管理に役立てることができるでしょう。
【聞き手】ありがとうございました。
※遺伝学的検査は疾患の発症を確実に予測するものではありません。結果の解釈には医療従事者による適切な説明が必要です。
聞き手:NPOこどこど 初野優花
公開:2025/9/8