武藤倫弘
米国のSporn MB博士が「がん化学予防」という言葉を定義してから約40年が経ちます。
我が国において「がん予防薬の1剤目を世に出すこと」は、1994年より始まった厚生労働省のがん克服新10ヶ年戦略(垣添•若林班)からの悲願であったかと思われます。
しかし、実臨床上の種々の課題(コラム4で述べた、医療制度などの問題です)が克服されていないため、現在までまだ一つもがん予防薬は実用化されていません(薬ではないため本当はがん予防剤と書くのが正しいことになります)。
ただ、これまでがん予防創薬上のボトルネックと考えられていたがん予防を目的とした臨床介入試験(実際人で薬剤などの効果を調べる試験)の実施に関しては、基盤整備が進みつつあります。
そして、エビデンスレベルが高いとされるランダム化比較試験レベルでもがん予防臨床介入試験を行う大学などの施設も増えて来ました。
さらに現在ではがん予防臨床介入試験を安全に正しく実施することをサポートしてくれる学会(日本がん予防学会)も現れました。
このことからも、先制医療としての積極的がん予防が社会に実装化される日は近づいてきている、と言えるかと思います。
がん予防臨床介入試験の成果をどのように利用するか、つまり、事業化や実臨床への利用などの出口に関して真剣に議論する時代がようやく到来した!といえるでしょう。
(注:エッセイは筆者の個人的考えを述べたものであり、所属組織の正式な見解ではないことを申し添えておきます。)
国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部 室長
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