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認知症のリスク

村松正明


人生100年時代、今後ますますシニアライフの過ごし方が大切になってくる。私も還暦過ぎて定年が近づき、その後の計画を考える。そのためには何と言っても健康第一。思い立って自分は遺伝子検査を受けて、病気のリスクと可能な予防法を秤にかけて健康生活を考え始めるきっかけとした。


我が家は家系的に認知症が多い。認知症になってしまうと人のお世話になり続けることになり大変だ。認知症は効果的な治療法はすぐには見込めそうもない。出来ればよりよい生活習慣を選択して、発症を抑えたり遅らせたりしたいものだ。ゲノムの研究者としてはAPOE遺伝子などの遺伝要因が高い人でもリスク軽減できるかどうかが気になるところ。


今回紹介する論文*はJAMAという評価の高い雑誌に掲載されたもので、イギリスのバイオバンクから平均65歳の男女を約20万人選びだし、後ろ向きのコホート研究をしたもの。遺伝要因と環境要因(生活習慣を含む)をそれぞれ5分位に層別化して真ん中の3つをひとまとめにするので、実際には遺伝、環境ともに3層x3層の合計9つのグループに分けた。8年間の間に認知症になった人とならなかった人をカウントして、それぞれのグループの認知症になるリスクを比較している。


結論としては、遺伝的リスクが高くても、生活習慣が良ければ認知症になるハザード比は0.68、つまり32%のリスク削減ができるというもの。遺伝的なリスクが高いことを完全にはオフセットできないが、遺伝的なリスクが高いと言われても、せっせと生活習慣の改善に励みなさいということだ


冠動脈疾患ではNEJMというこれも評価の高い雑誌で発表された論文**が同じように遺伝的リスクが高くても生活習慣の改善が予後に重要との結果だった。これらの研究で新しいのは、遺伝的リスクの測定にポリジェニック・スコアが使われていること。一つの遺伝子ではなく、複数の遺伝子の要因を合わせて計算する手法で、最近では多くの生活習慣病(多因子疾患)で用いられるようになった手法だ。


生活習慣のリスクは、タバコ、運動、食事、アルコールの4つの要因でスコア化している。大丈夫なもの、耳の痛いものと、それぞれあるけれど、自分で変えられるのはこちらなので、できることから始めよう。認知症のリスク軽減には、社会性が重要との前向き研究もあるので、こちらも少しづつ計画を取り組んでいこうと思う。


(東京医科歯科大学教授)

*JAMA. 2019 Jul 14. doi: 10.1001/jama.2019.9879. [Epub ahead of print]

**N Engl J Med. 2016 December 15; 375(24): 2349–2358.