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肥満のリスク

村松正明


今回紹介する論文はアメリカの主要雑誌のうちのひとつ、Cellで今年(2019年)に発表されたもの。肥満についての遺伝的なリスクについて、とても網羅的な研究で、多くの論文のまとめ的な研究でもある。なかなか難解で、かつ厳密であるためにそれほど親切にまとまっているわけではないので、簡単に「まとめ」てみたいと思う。



まず研究の規模について、合計すると30万人という途方もない人数が対象になっていて、測定している変異も210万箇所と大きい。これをコンピュータアルゴリズムでポリジェニック・リスクを計算するわけだが、肥満との関連、影響度とかを計算していく。リスクが低いとされた上位10%と、高いとされた上位10%、また中間の80%では、どれだけ肥満になりやすいかというのを示したのが、棒グラフでわかりやすく示されている。


もちろんこのような遺伝要因で全てを語ることはできないけれども、遺伝的なリスクが高い方が明らかに肥満になりやすい。


これは欧米人を対象にした研究なので、そのまま日本人に当てはまることはない。でも、この研究のすごいところは、このようなポリジェニック・リスクのほうが、レアバリアント(希少な変異)よりも影響力が大きいことを示したことだろう。具体的には、肥満については、MC4Rという変異が有名で、そのバリアント(変異)を持つ人は全体の0.02%しかいなくて、このような人は平均すると7kg体重が多い。一方で、遺伝的リスクの大きい上位10%の人は平均して8kg体重が多い。


もうひとつ、この研究で興味深いのは、このような遺伝的リスクの高い幼児や子供はどれくらい体重が違うかを示したことだろう。生まれたばかりの頃は0.06kg、つまりほとんど差がない。ところが18歳になる頃には大きな差ができてしまう。だから、このような遺伝的なリスクを持つ方々はなるべく早めに生活習慣の改善に取り組むほうがいい。とくに子供の頃が重要だろう。


子供に遺伝子検査を受けさせるのは抵抗があるかもしれないが、せめて親は受けて自分が太りやすい体質かどうか知っておくのはいいことかもしれない。


肥満が問題になるのは、このような遺伝的リスクが高いことは、以下の6つの疾患についてのリスクを高めるというでも明らかだろう。


冠動脈疾患 28% UP

糖尿病 72% UP

高血圧 38% UP

鬱血性心不全 34% UP

虚血性脳梗塞 23% UP

静脈血栓塞栓症 41% UP


(東京医科歯科大学教授)

PMID: 31002795

Polygenic Prediction of Weight and Obesity Trajectories from Birth to Adulthood.

Cell. 2019 Apr 18;177(3):587-596.e9. doi: 10.1016/j.cell.2019.03.028..