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冠動脈疾患のリスク

村松正明


冠動脈疾患は動脈硬化症を原因とし、血管狭窄・血流不全により急性心筋梗塞や狭心症などの重篤なイベントを引き起こす病態をいう。日本人の死因として上位にあり、生活習慣を巡るリスクの他に、家族歴が強いリスクファクターであるように遺伝子の関与が大きいことが知られている。最近ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって多くの感受性遺伝子が発見されたが、それらを合わせてリスク判定をするポリジェニックスコアが開発されるようになった。


今回紹介する論文は2016年末にNEJMに掲載されたもの。遺伝的なリスクと環境的なリスク(生活習慣含む)を層別化した大規模な研究であり、ポリジェニックスコアの臨床的有用性を示唆するものとして注目した。



欧米で行われた4つの前向きコホート研究からデータを取得し、合計55,685人を対象としている。

遺伝要因は大規模なGWAS(ゲノムワイド関連解析研究)によって検証された50のSNP(一塩基多型)を測定し、5分位に層別化して真ん中の3つをひとまとめにして、3層のグループに分けた。

環境要因としては、タバコを吸わないこと、肥満ではないこと(BMIが30未満)、運動を週に1回は行っていること、健康的な食事をしていること、の4つの要因にまとめた。そのうち、3つ以上、2つ、1つ以下を実施しているという3層のグループに分けて解析している。


結論を表に示す。遺伝リスクが高くても生活習慣が良ければ冠動脈疾患のリスクは46%低くなることが示された。従来の生活習慣が大切であるという結論に変わりがないが、遺伝的リスクと組み合わせて期待通りにリスク削減される点が目新しい。


さらにこの論文では以下の4つの点について明らかにしているのが有意義だろう。


1)遺伝要因のリスクについて検証していること。遺伝的なリスクが高い上位1/5のグループは1.91倍というGWAS研究からの理論値が、1.90倍というコホート研究の実態によって検証された。


2)生活習慣のリスクについても検証していること。ハザード比はそれぞれ、タバコを吸わないこと0.56倍、肥満ではないこと0.66倍、運動を週に1回は行っていること0.88倍、健康的な食事をしていること0.91倍、となった。


3)遺伝要因と環境要因とかそれぞれ独立していること。この論文ではこのような交絡要因を取り除いている。だから遺伝要因のみでは病気は発症しないことを示している。


4)遺伝的なリスクが高い人は、より生活習慣改善に取り組んだ方がいいということを明らかにしていること。


医療全体が個別化の方向に向かっているが、予防医療も同じように個別化に向かっている。遺伝的メークアップによって、個性に合った生活習慣の改善に取り組むことができるようになることを予感させる。


この研究では白人が対象となっているが、日本人(アジア人)での追試が望まれる。


(東京医科歯科大学教授)