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がん予防は、なぜ政治的意志に結びつかないのだろう?

武藤倫弘

「いやいや、<がんの予防の大切さ>は常に社会に向けて発信されているし、様々な医療目標・理念の中に必ず入っていますよね」という人がいるかもしれません。



確かにがんの予防の重要性は認められており、総論については皆賛成ですが、実は各論になると議論が全く進んでいないのです。例えば、環境中に存在した発がん物質に曝露された、というようなリアルな被害者のいる事案と比べると、がんの予防の場合、がん予防活動の利益を受ける者が明確ではなく、直接的な証明がしにくいため、政策反映や制度化への声が上がりにくいことが挙げられます。つまり、被害者のいない予防のようなテーマは政治的意志や学術研究テーマに結び付きにくい、と言うことが出来ます。


 そもそも我が国でがん予防を専門に研究している人材はまだまだとても少なく、研究を主導し、世間で注目を集め、政策立案にまで結び付けられる様な人材がほぼいないのです。そして、このことこそが、がん予防対策における最大の問題と思われます。医学部教育の講義で、医学生(医者のタマゴ)達は、がんに関する医学知識、公衆衛生学、さらにがんの疫学も学びます。しかし、がん予防に特化した教育はその専門家の数から判るようにちゃんと系統立てて学んでいないのが実状ではないでしょうか?大学や大学院における「がん予防」という言葉が含まれた名前の講座や研究室の数を数えてみるとその少なさから日本におけるがん予防教育の貧弱さを数値として実感することができます。(注:エッセイは筆者の個人的考えを述べたものであり、所属組織の正式な見解ではないことを申し添えておきます。)


国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部 室長


#がん予防